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医療AI研究と社会実装 – 英国のトップ研究者と世界動向を展望する –

EIRL Editor
Dec 8 2020

本記事は、2020年11月1日に「映像情報Medical2020.11月号」に掲載されたケンブリッジ大学・放射線科 研究員 Leonardo Rundo氏とエルピクセル代表取締役 島原佑基・韓昌熙との対談記事です。
(「映像情報Medical2020.11月号」より許諾を得て掲載しています。)

海外から見た日本の医療


Leoは日本の医療についてどう思っています? 「日本の医療側とAI側のギャップとその解決策」1)について、最近僕と論文も書いていたけれど。


Rundo
日本の①医師、②AI研究者、③医療と情報学にまたがるジェネラリストたちを呼んでワークショップを行ったり、放射線科医に私たちの研究成果「敵対的生成ネットワークによるリアルかつ多様な医用画像生成」に関するアンケート調査を行ったりしましたね。

日本の医師、AI研究者、医療と情報学にまたがるジェネラリストたちを呼んでワークショップ

こうした経験からすると、日本は国の規制こそとても強いものの、人は新技術にオープンな印象があります。英国も倫理を大事にしているので、規制は日本並みに強いです。最近読んだ日本の医療AI事情に関する論文2)には、「AIに詳しい医療従事者を増やすべく、教育を行おうとしている」と書いてあったけれど、英国も事情は同じ3)。米国と違って、癌を公的医療制度がカバーするところも一緒です。公的医療制度があるということは、匿名化された大量のデータがあるはずなので、AIでそれを解析することで社会問題を解決していかねばなりません。
特に、日本は英国や諸外国と違って、世界でも類を見ない高齢化問題を抱えているので、速やかにAIで手を打たないと社会は持続できないでしょう。



まさにその点について、海外から見て、「日本政府はこれをすべき」といった提案ってありますか?


Rundo
日本のAIマーケットは2015年時点で3.7兆円であり、2030年までに87兆円に達する見込みなので、投資自体は上手く進んでいると思う。肝心なのは使い道。
ケンブリッジ大学だと、アストラゼネカなどのバイオ・医薬品企業からの莫大な投資があり、病院と研究施設、スタートアップ企業を含む生物医学のキャンパスが毎年物凄いスピードで拡張しています。常に複数の建物が同時建設中で、医用画像解析とゲノミクスを網羅する医療AIの開発と臨床導入に適した環境になっています。こうした介入は、日本においても必要不可欠でしょう。


島原
とっても興味深いご提案ですね。日本政府が正しい方向で投資すべきという点に強く同意します。日本にも医療AIの開発と臨床導入を加速すべく、2018年に厚生労働省に保健医療分野AI開発加速コンソーシアムが設置されましたが、まだ議論中で、諸外国と比較して成果が出るまでにスピードに後れを取っております。
その一因として、コンソーシアムには大きな企業や病院、大学だけが入っており、スタートアップ企業や若い世代が含まれていないことがあると思います。

医療AI研究の課題


医療AI分野の研究者として、Leoは最近の最も重要なイノベーションは何だと思っています?


Rundo
やはり、ディープラーニングかなぁ。研究者全員がこの流れに乗っている。
ただし、医療AIだとモデルの解釈性と説明可能性が特に重要で、これらが不十分なままだと、完全自動製品が臨床現場で普及することはないでしょう。
だから、製品開発をデザインする上で、人の介入や微修正を上手く想定(Human in the loop)することは必須です。



まさにその通りだと思う。特に人の介入は手術や薬物投与といった治療において重要だけれど、今のAI研究のほとんどは診断支援に重きを置いていて、手術・創薬・予後予測などの治療支援はあまり進んでいない。
さらに言えば診断支援も限定的で、医師は診断する際に放射線画像・臨床データ・病理画像をすべて見ているけれど、AIは放射線画像だけで判断するケースが大多数です。


Rundo
手術支援だと、AIだけでなくロボティクスとの組み合わせも重要だけど、AI単体での進歩が主になっていると思うんだ。予後予測を含む臨床的問題については、臨床医が問題を定義し、結果を解釈しないといけないから、AI研究者だけでなく臨床医も医療AIの研究開発に加わることが重要です。逆に臨床医だけがAIツールを使うと、技術的に正しいモデル設定などが分からないまま、「とりあえず出力された数字を追って解釈しよう」となるので、これもまずいです。

ケンブリッジ大学放射線科のLeoがいる研究室。英国だと大きい病院にはAI研究者がいて当たり前
写真左:韓氏 写真右:Leonardo Rundo氏

島原
ほとんどの場合、日本の医療施設にはAI研究者やAIエンジニアはいないので問題です。医療側とAI側のコラボレーションが重要ですが、日本にはどちらも詳しい人材があまりいません。だから英国の状況が羨ましいです!日本だと数学を得意としない人が生物学の分野に進むことが多かったりとメンタルの問題が大きい気がするので、この状況はいずれ時間が解決するしかないかなぁ。

医療AIの社会実装シナリオ


医療AIは研究だけでは不十分で、健康を守って人命を救うには、開発と商用展開も重要です。このコロナ禍の中、英国・日本・米国はどうやって医療AI開発を進めているか、意見交換しましょうか。


Rundo
英国では多くの慈善団体が医療AIの研究開発を支援しており、たとえばWellcome Trustは私がいるCancer Research UKやWellcome Centre for Human Neuroimagingなどの多くの施設を設立しています。だから英国は、慈善団体のおかげで世界を先導できているんです。英政府や欧州連合も医療AI開発に助成金を出していますね。Microsoftといった企業が博士学生をサポートするなど、もちろん企業も協力的です。



日本だと、医療AIの研究開発を積極的に支援する慈善団体はどこにもありませんし、その影響か医療AI分野の研究者や博士学生もほぼいないので、医療AI開発が進んでいないのは当然の帰結なのかという気がしてきました……。


島原
コロナ禍が医療の在り方を大きく変えましたが、これはむしろ医療AIにとっては、社会にその重要性をアピールできるチャンスだと思っています。実際に日本でも新型コロナの診断支援AIが、1ヵ月も経たずにして迅速な医療機器承認を得ていますし。私は、今から3年が医療AIのマーケット進出時期だと考えています。技術はグローバルですが、ビジネスはローカル。だから医療AIの開発・商用展開には、日本だとキヤノンや富士フイルム、米国だとGEのような、各国のトップベンダとの協力が重要ですね。Rundoさんが言っていたように英国と日本には公的医療制度があるので、ローカルでビジネスをする上で医療AIの公的保険収載は重要かと思いますが、どうお考えですか?


Rundo 難しい問題ですね。民間保険会社がメインな米国と違って、公的医療制度はより平等です。私も米国に数ヵ月間住んでいましたが、良い保険サービスがある場合のみ、とても迅速に医療を受けられます。たとえば、私の同僚の妻は怪我をしてから数日後にはMRI検査を受けられましたが、これはリソースの限られた公的医療制度ではあり得ません。オバマケアは医療格差の問題を対処しようとしましたが、資本主義国の米国では受け入れられず、大失敗しました。英国の人は世界最大の公的医療制度である国民保健サービス(NHS)を誇りに思っていますし、私も公的医療制度が質の高い医療を提供し、人を守ることが重要だと思っています。そういった意味で、医療AIの公的保険収載は社会実装において必須ではないですかね。


島原 実際に医療AIを臨床現場に導入してから医療経済的効果を予測するには時間がかかります。一方、医療AIを強化していくための最低限のFact、あとはそれを推進する国の方針があれば公的保険収載は進むと思います。公的保険に入ると、医師は自身が医療に役立つと感じるAIを自由に使えるようになるので、Win-Winですね。ただし、米国と違って日本では、医療AIをカバーするのは基本的に民間保険ではなく公的保険になると考えています。同様に、AIを売りにする病院やAIを搭載したX-ray/CTベンダなどが全面的にお金を出すことも、社会実装シナリオとしてはない気がします。

10年後の医療AIの未来


最後に、10年後に医療AIが社会でどんな役割を果たしているか展望していただけますか。


島原
日本だと法律で定められた健康診断を受けますが、画像診断はX-rayが中心です。私は、今後は詳しい診断よりも、スクリーニング用途でのAI開発が加速し、X-ray上に映るほとんどの疾患を正確に自動検出するセカンドオピニオンが定着すると考えています。われわれも、そうやってAIを医療に必要不可欠なものにしていきたいですね。


Rundo 同感ですね。まずはスクリーニング用途で社会に医療AIを普及させることで、疾患部位のセグメンテーションなどで臨床医の業務効率化を図るようになるでしょう。最近私と韓と島原さんで「敵対的生成ネットワークによる教師なし異常検知」4)論文を書いて投稿しましたが、希少疾患(希少部位・形態)のデータは十分に得ることができないので、超大量の正常画像だけで学習したAIを使って分布から外れる所見を異常として検出し、希少疾患を含むさまざまな病気のアラートをすることも今後スタンダートになるかと思います。

参考文献

対談相手

ケンブリッジ大学・放射線科 研究員 Leonardo Rundo

ミラノ・ビコッカ大学 博士課程修了。博士(コンピュータ・サイエンス)。研究テーマは「コンピュータによる生物医学画像解析」。米・ヴァンダービルト大学および東京大学および英・ケンブリッジ大学で訪問研究。王立癌研究基金ケンブリッジセンターと密に連携しつつ、腫瘍画像解析の研究を行っている。機械学習とラジオミクスによる統合解析を駆使し、マルチパラメータやマルチモーダルな画像データにある患者情報を適切に組み合わせることで、個人レベルでの癌メカニズムの正確な解明を目指している。

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