2019年4月11日(木)〜14日(日)にパシフィコ横浜にて放射線学会が行われた。今年はAI、人工知能に関する演題数が前年の数倍に増えた。AIに関する教育セッションにいたっては、医師の参加が多く、入場制限がかかっていたほどだ。書籍コーナーのランキングをみても、人工知能関連の書籍が目立つ。併設された展示会、ITEM(国際医用画像総合展)においては、昨年は我々LPIXELくらいしかAIをメインで展示していたベンダーがいなかったが、今年は多くブースでAIの文字が踊っていた。確実に、大きな変化を感じる放射射線学会・ITEMを振り返りつつ、今後の医療画像AIについてライトにまとめてみようと思う。
学会でも盛り上がるAI研究発表
前年はAIに関する口述研究発表は片手で数える程度だったが、今年はざっと数えても20ほどある。発表の中には、評価データと学習データを同一にするようなびっくりするようなものもあったが、それだけ裾野が広がっているということでご愛嬌としておきたい。発表の多くは、いわゆる病変部位にアノテーションした教師データを深層学習により学習させて、実際にソフトウェアを評価してROCカーブを示す、というような内容である。多施設研究よりは、単施設での研究が多かったようだ。また、教師なし学習で正常画像だけを学習させて異常検知を試みる、おもしろい発表も見られた。私も数年前に医師から「大量の正常データだけを学習させて、それから乖離したものだけをピックアップするだけでいいんだよ。通常、私も画像を眺めて、「あれ?いつもと違うな」と思うところに注目するんだよ。」と言われたことがある。比較的思いつきやすい考えで、試してみる価値はあるのだが、実際はそう簡単にはいかない。当然ながら、正常と異なるデータがあってこそ、その分類機を効率的に開発できるわけだ。しかし、医療画像AIの開発にあたっては、良質な教師データを多く用意することがボトルネックになることも多く、この課題を解決するような類の研究開発は耳目を集めてしかるべきであり、今後もこのような研究は進んでいくだろう。
存在感増す海外ベンチャー勢
前年、AIベンチャーといえば我々LPIXELくらいしかブース出展していなかったと思うが、今年は中国からinfervision社が大きなブースを構え、韓国からはvuno社も1区画ながら初出展していた。サンフランシスコの医療AIベンチャーの火付け役ともいえるEnlitic社は丸紅社から出資を受け、コニカミノルタ社との協業を通じて、同社のブースで展示をしていた。また、韓国のLunit社は富士フイルム社との連携を発表している。日本進出方法は様々な形があるが、徐々に海外のAIベンチャー勢が日本で目立つようになってきたことは明確だ。実際のところ、日本はCT、MRIの導入率が世界で圧倒的に1位であり、医療画像市場は米国と並んで世界最大市場だ。当然、世界市場を目指す過程で日本に進出することが視野に入ってくる(ただ、日本独自の大変さが大きなハードルになることも多いのでこれは別途まとめてみようと思う)。世界最大の放射線学会RSNA(北米放射線学会)の展示会では、2016年くらいからAIベンチャーが散見されるようになり、2018年には80社近くブース出展していることを考えれば、その勢いを日本で感じるほどではないが、日本にも数年遅れでその波が押し寄せていると言える。国により診断基準が異なるため、海外の診断基準で作成されたAIがどこまで日本で役にたつのかは、これから検証されていくことになるだろう。
医療画像AIの今後
一般の人がこの状況を見ると、医療画像AIのブームを感じ、数年後には医療診断現場がAIに埋め尽くされるような姿を想像する人もだろう。しかし、実際はそんなに甘くない。開発から販売までには、法規制対応を含めると年単位で時間がかかってしまう(研究開発から販売までの複雑さについてはこれも改めてまとめてみようと思う)。企画から販売まで数年かかるとすると、当然、AIでできることは限りが出てくる。日本の放射線領域において数年後に確実にいえることは、ニーズが大きく市場も大きい単純胸部X線、肺CT、マンモグラフィーを中心に、商用化された様々なAIからユーザーが選択して購入できるようになり、市場のシェアを少しずつ争うことになることである。そして、医療機関でAIが使われると、学習データとなるようなデータも同時に蓄積できるようになり、AIを使いながら、医療機関自身、あるいはシステムベンダーなどは教師データを蓄積できるようになる。そうすると、医療機関、あるいはシステムベンダーが自身でAIを開発しやすくなり、開発のハードルが下がることに繋がる。このような状況を鑑みると、先行するAIベンダーは先行者アドバンテージを守りきるというような悠長なことは言ってられない。当然、AIの精度向上には終わりはないいので長い目で取り組まなくてはならないし、検出の次には分類、治療法の提示、そしてワークフローへの効率化など、機能をどんどん進化させていく必要がある。また、保険収載のために、医療経済的な合理性を伝えるような社会的な努力も必要になるだろう。医療機器独特のライフサイクルを考えると、この市場を独占してしまうようなプレイヤーが数年後にでてくるような単純なことはおこらない。医療画像AIに関わる企業は、しっかり医療の課題を捉え、長い目線で、できることを小さなステップに区切り、一つ一つクリアして先導していく必要がある。きっとこれは、自動車であればいきなり街全体が自動運転に変わらないのと同じように、駐車サポート、ハンドリング支援、自動追従など、できることを一つ一つ市場に提供していきながら文化を変えるような取り組みだろう。そういう意味では、この世界はweb業界のように急激には変わらない。しかし、大きな変化が起こることは間違い無い。医療画像AIに関わる企業はこの数年でしっかり実績を残し、その上で長期スパンでミッションを持って努力していくことになる。